ー鎮守の森ー 人には森が必要なのだ。

私は岡山市という岡山県の県庁所在地の割と中心部で育った。今でも地元からそんなに離れていないところに住んでいるのだが、やはり子供の頃の行動範囲の中に帰ってくると、テリトリーに戻った動物の様な安心感がある。

私の育った辺りはマンション地帯なのだが、村落共同体の様な強力な地域連帯ではないにせよ、町内会というものはあったらしい。

今でも続いている様なのだが、私の子供のころも、夏と秋と地域のお祭りがあり、子供達は夏には灯籠を作り秋にはだんじりを引いた。

その夏祭りの灯篭を家のすぐ近くの小さな稲荷神社、(神社と言った方がいいのか、祠と言った方がいいのか迷うぐらいの規模だが)の軒先に飾って夕方になると灯篭に灯りを灯す。

夏の懐かしい思い出だが、この小さな稲荷社の敷地は狭い。もっと昔はもう少し広い敷地だったのかもしれない。街中なので区画整理にあったのかもしれない。

その狭い敷地の中に神社の建物と、その裏に桜の木が一本だけ立っている。私は毎年その桜を楽しみにしている。

だがその桜の木の周りはマンションとビルに囲まれた開発地域である。なぜ切り倒されないで生き残ったのか。それは前述の稲荷社があるためだ。

神社や祠は木や森と共にある。大事な場所を守るためにいつの間にかそこにある。

今回紹介する本もそんな神社や森の話。

鎮守の森 宮下昭

タイトル 鎮守の森 著者   宮下昭 新潮文庫

森や里山に入ると必ずと言いていいほど、神社や祠に出会う。

逆にいうと、神社や祠が置かれていたから森が残っているということだ。

本書の中でも述べられているが、人類は長くはない歴史の中、その活動によって世界中で土地本来の森を破壊し消滅させてきた。しかし、日本においては比較的、森の消滅は少なかった。

焼畑や伐採もするが、日本人は「森の皆殺しをやらなかった」と述べられている。

 自然には、ヒトの顔で言えば頬っぺたの様に、触ってもいいところと、指一本触れても駄目になる目の様にきわめて弱い部分がある。我々の祖先は長い経験または試行錯誤の結果であったかもしれないが、開発に際していわゆる目の中に指を入れなかった。

ー中略ー

弱い自然を象徴している場所に祠を作り

ー中略ー

土地本来の弱い自然を残してきたのではないか

(本文中から抜粋)

よく開発の際、この祠を取り壊したらタタリがある。という様な話を聞くことがある。開発に携わった人が次々と・・。という様なオカルト話は置いておいて、実際に、そういった祠がある場所は森の弱い部分なのだろう。

祠を取り除き造成された場所は残った森も死んでゆく。木が枯れ土が剥き出しになり、やがて剥き出しの土は大雨の時、土石流となり人の住処に襲いかかる。

こういったモノを日本人は”タタリ神”と呼んできたのだろう。

「タタリ神を鎮めるために再び祠を建てる」昔ばなしによく出てくるモチーフであるが、昔は誤って壊してしまった自然の弱い部分に、再び祠を建て”タタリ神”を祀ることで自然を再生させていたのではないだろうか。そういった無意識のリカバリーシステムが機能していたのではないか。

 

神々が霊力を失った現代日本では、そのリカバリーシステムも失われ、根拠を科学にたよった造成地は、自然が荒ぶる神となる時脆くも崩れ去ってゆく。

と、悲観的になってばかりだったが、最近若い世代と接していて感じるのは彼らはごく自然にエコロジカルな思考を持っているということだ。

我々愚か者世代とは違って、むやみやたらと車に乗って排ガスを撒き散らしたり、その辺にタバコの吸い殻をポイ捨てしたり、買い物のたびにビニール袋をもらったりもしない。

そして、森や自然に対しての尊敬心も興味も旺盛だ。私の住む岡山県でも、中山間部に移住する若い世代は増え続けている。例えば美作市の上山地区の様に、若い世代の移住によって、廃れていた棚田を再生させ、夏祭りの様な年中行事も再び執り行うことができる様になった場所もある。私も度々訪れたことがあるが、忘れてはならない”日本人”の姿がそこにある様に感じた。皆美しい。

多くのふるさとの森を失ってみて、日本人は思い出したのかもしれない。人間とは森と共に生きる動物なのだと。森無しにでは我々は満足を得られない存在なのだと。

幸い、現在のテクノロジーの進歩は森や自然と共存する方向に向かっていると個人的には思っている。昔を取り戻すのではない。よりよく森と共にある美しい街、社会を我々は手にできると信じている。

小さな稲荷社の裏、私の鎮守の桜はこれからも、春になれば花を咲かせてくれるだろう。私がいなくなった後も。

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